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平凡

二葉亭『平凡』(岩波文庫)を数日前に読み終わりました。 ある文士の懺悔録めいた物語です。 二葉亭の長篇小説の中でも、最も平易な文章で書かれており、これが一番取っつきやすいかもしれません。 しかし、その内容たるや、世間一般の文士、文学者に対する嫌悪が充ち満ちております。 実生活に深く根差さない、思惟の中だけで生きているような芸術家のことを、二葉亭は大嫌いだったようで。 私小説としても読めるのですが、偽悪家かと思われるほど露悪的に主人公は己のダメさを書き連ねております。 あ、主人公の子供の頃の愛犬「ポチ」に関するエピソードは悲し過ぎます。 その点では、犬好きの方にはお勧めできません。要注意。

山岳

鷗外『大塩平八郎 堺事件』(岩波文庫)を読み終わりました。 一応「歴史小説」と銘打ってはいますが、現代の歴史小説的な読物を期待すると、肩透かしを喰らうかもしれません。 淡々と叙述が進みます。 『堺事件』のほうは、凄絶な切腹の有様に、度肝を抜かれるでしょう。 で、岡本綺堂他『山の怪談』(河出書房新社)も読み終わったわけで。 こちらは山の怪異に関する民俗学者の読物、山をモチーフにした怪談小説、登山家の怪奇な随筆を収めてあります。 山の怪談小説に関しては、小泉八雲、綺堂、志賀直哉辺りは定番の作品を収録してあるので、既読の方が多いかも。 中でも面白かったのは、工藤美代子『行ってはいけない土地』、西丸震哉『岩塔ヶ原』、沢野ひとし『縦走路の女』です。 『行ってはいけない土地』は、ある精神状態の時に訪れると引き込まれてしまう山(東京近郊のT尾山?)の恐怖を描いた話。 引き込まれてしまった女性が、鏡台の前で泣きながら髪を梳り続け、やがて自殺したというところには、ゾッとします。 『岩塔ヶ原』は、単なる遭難者の幽霊を見た話かと思いきや、最後にアッと言わされること請け合い。 『縦走路の女』は、怪異の中にもどこか悲しさを感じます。 お薦めですよ。 次は……何にしよう。二葉亭の『平凡』を読もうかな。