千鳥
鈴木三重吉の初期短篇集『千鳥』を読み終わりました。 おそらく現代の人には、「三重吉が来て、鳥を御飼いなさいという」の漱石『文鳥』で名前を知っている人のほうが多かろうかも知れません。 この短篇集には、童話作家に転身する前の三重吉の処女作他が収められています。 これがねえ、いいんですよ。 三重吉自身、ほとんど空想で書いた的なことを解題で言っていますが、これがうまく功を奏してるんです。 漱石の『夢十夜』や百閒の諸作品とはまた違った味わいの、長い夢を見ているような、それでいてしっとりと情緒が感じられる、幻想的作品に仕上がっています。 処女作『千鳥』もいいんですが、というか収録作はどれも素晴らしいのですが、『おみつさん』と『烏物語』は何だか若い時の母親の夢を見て、母親が懐かしくなるような、そんな感じがします。 と三重吉を絶賛していますが、百閒の随筆によると、彼は私生活では、とんでもない人物だったようです。 (以下の三重吉伝説は、百閒作の随筆で読んだものですが、面倒で原典にあたっていないので、記憶違いがあるかもしれません) ・漱石の口利きで、千葉かどこかの学校に赴任したものの、大酒をかっくらって大喧嘩をやらかし、大怪我で入院。見舞いに来た漱石と門下の人たちに、ひたすら「私の不徳の致すところで」を繰り返したため、さすがの漱石も呆れて笑うしかなかった。 ・地方に赴く用事があると、「地酒なんか飲めるか!」と言い放ち、東京から樽酒を担いでいかせた。 ・当時、ダーウィンの進化論が訳されたが、誤訳があったそうな。三重吉は百閒たちと飲んだ後、ある家の前へ皆を連れてきた。それは進化論の翻訳者の家で、三重吉は聞こえよがしに大声で「ここが誤訳の大家の先生の家だぜ!」と呼ばわった。 等々。 豪快さんですね。酒癖が悪かったようで。 そんな三重吉が好きです。