魔境
そして小栗虫太郎の連作短篇『人外魔境』(河出文庫)も読み終わりました。 いい! 実にいい! 虫太郎の小説では、本書が一番取っつきやすいのではないでしょうか。 文章がこなれています。 そして文体を飾る奇怪で華麗なるルビの数々! 虫太郎一流の衒学は、本書でも如何なく発揮されています。 全十三話からなる本書は、三話目から「折竹孫七」という畸獣収集家にして国際的密偵を主人公にしております。 折竹を途中から主人公に据えたのは、やはりシリーズを通してメインキャラが確立していた方が、物語を進めやすい、と虫太郎は感じたのでしょうか。 この折竹が世界の秘境(テラ・インコグニタ)を冒険するのですが、その魔境の描写たるや、「虫太郎、見てきたような嘘をつき」と微笑みたくなる素晴らしい出来栄えです。 (もう『黒死館』を読んだ時のように初心ではないので、虫太郎の開陳する衒学がすべて真実だとは思わない境地に達してしまいました・笑) 物語ひとつひとつもコンパクトに纏まっていて、実に読みやすいです。 読者によっては、「尻切れ蜻蛉で物足りない」」「長篇にしてほしい」と思う方もいるかも。 でも、読んでいて「虫太郎疲れ」は感じないので、一話がこれくらいのボリュームが適切だと思います。 「小栗虫太郎を読んでみたいなあ」と思っている方には、まずは探偵小説よりも、こちらをお薦めしておきます。