投稿

9月, 2013の投稿を表示しています

韻律

岩波文庫の鷗外作『山椒大夫・高瀬舟 他四篇』を読了しました。 この中で、一番心に残ったのは、ズバリ『寒山拾得』です。 これは文末のリズムがいい。 「である」の連発なのである。 特に最初のほうの「閭が果たして台州の主簿であったとすると日本の府県知事位の官吏である。そうして見ると、唐書の列伝に出ているはずだというのである。しかし閭がいなくては話が成り立たぬから、ともかくもいたことにしておくのである。」というところなんて、生き生きとしたリズムの中にとぼけた味があって、「鷗外やはりただ者ではない」と思わされたのである。 話自体もとぼけた味があっていいのですが、これは鷗外が娘さんに物語った話をそのまま直接小説にしたそうで、その語り口調が「である」の連発に反映したのではないかと思うのである。 『雁』の時にも触れましたが、鷗外の作品に時に出てくる「とぼけ味」にもっと目が向いてはいいのではないか、と私は愚考する次第である。 次は乱歩の『黒蜥蜴』を再読するつもりである。

同志

年中バンドTを着ている倉野ですが、たまに見知らぬ同好の士に話しかけられることがあります。 以下の話は、昔々某掲示板に出入りしていた時に書き込んだことがあるので、過去ログを漁れば出てくるかも。 もう10年ほど前ですが、西武池袋線の練馬駅で、私は電車を待っていました。勿論バンドT、それもBurzumのを着て。 すると、ホームにいた若い外国人の男性の方が私のTシャツを見てニヤリと笑い、近づいてくるではないですか。 咄嗟に思ったのは、「やべ、アンチ・クライスト系のバンドだから、因縁をつけられる!」 しかし、その方は流暢な英語で「いいTシャツだね。僕はそのバンド好きだよ。ところで、武蔵藤沢に友人が住んでいるんだけど、どう行ったらいいの?」と。 ここで私の恐怖は氷解し、すぐに打ち解けて、「所沢まで行くから、途中まで案内してあげるよ」ということになりました。 訊くと、彼はドイツ人だそうで、こっちは拙い英語で一生懸命会話しました。 ちょうどサッカーのワールドカップでドイツが決勝進出していたので、「おめでとう」と言うと、「僕はサッカーには興味ないんだ」と意外な答え。 「他にどんなバンドが好き?」と訊くと、「Mardukが大好き! テクニカルなブラックメタルが好きなんだよね~」とのことでした。 「日本ではブラックメタルは人気があるの?」と問われたので、「最近は結構来日してるよ。Impaled NazareneとかMardukも来たし」と答えると、「すげえ! 日本ではブラックメタルがホットなんだな!」と幾分誤解したので、「いやいや、まだアンダーグラウンドだよ」とたしなめました。 「僕はまだブラックメタル系のライヴに行ったことがない」と嘆息すると、「面白いぞ~。血を飲んで、火を噴くからな!」とガハハと人懐っこそうに笑ってました。 「ダイナモ・オープン・エア(オランダで開催されるメタル系の一大フェス)に行ってみたいな」と言うと、「僕は行ってきたよ」とリストバンドを誇らしげに見せてくれて。 で、「日本に来て君みたいな人に出会うとは思わなかった。是非写真を撮りたい」とのことなので、人差し指と小指を立てるメロイックサインで車内で記念撮影。 すると「君は日本人なのにピースサインしないんだな」と不思議そうに言うので、「悪魔主義者はこうでしょ」と笑うと、「Great

始祖

「推理小説の始祖と言われるポオの全貌に触れてみるか、ひまだからな!(©上野顕太郎氏)」とばかりに、最近東京創元社のポオ小説全集を読み耽っていました。 エドガー・アラン・ポオといえば、前述のように推理小説の始祖、怪奇幻想文学史上において偉大な足跡を残した人物として有名です。 私も代表作だけ昔読んで、そう思っていました。 ところが……3巻まで読破して、「おや、そうでもないぞ」と。 確かに怪奇色の強い作品も多いですが、全作品の結構な割合が、滑稽小説なのですよ。 英文学を専門としている人には「何を今さら」という感じかもしれませんが、素人には新鮮な驚きでした。 『眼鏡』なんて、まあこんな馬鹿馬鹿しい話をあの大文豪が……という印象。 『メルツェルの将棋指し』なんかを読めば、彼には不可解な物への分析癖が異常なほど強くあって、それが後の『モルグ街の殺人』他の推理小説群に繫がったのだ、とわかりますが、彼の頭脳を形作る両輪のもうひとつとして、「笑い」というものがあったのだな、と思い至りました。あくまで素人考えですが。 やっぱり作家の実像を云々するには、傑作集ではなく全集を読まねば駄目ですね。 ポオの熱烈な崇拝者であったラヴクラフトが、これらの滑稽小説をどう考えていたかを知りたくなりました。

結末

九月になっちゃいましたね。 今朝ふと思い出したのですが……私は小学校低学年の頃、友達に自作の怪談を語るのが好きでした。 友達を集めて得意げに語っていたと思うのですが、結末はすべて、怪物や幽霊がバズーカ砲で吹っ飛ばされておしまい、というアナーキーな展開の怪談だったように思います。 子供って……××ですね。 でも、こういうアナーキーさ、今の自分の創造力にもほしいと思ったり。 あと、少年探偵団に感化されて、いかに当人に知られずに尾行をするか、という案を友達と真剣に練っていたのも思い出しました。 何とも恥ずかしいですが、遠い遠い思い出です。