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埋没

今、田山花袋の『田舎教師』を読み終わりました。 花袋は晩年、『蒲団』のことを持ち出されると「今更蒲団でもあるまい」と相手にせず、『田舎教師』を自作の中でも特に愛していたそうですが、それがよくわかりましたよ。 中学校を出ながらも、没落した家の呪縛のせいで高等学校にも行けず、田舎の小学校で教師をすることになった清三は、失望の念を抱きつつ、友に嫉妬したり、羨望したり、「いや、今に見ておれ」と大志を抱いたりしながら、結局は段々と日常の中に埋もれていく……といった話です。 清三が廓狂いになってからの後半は、貪るように読みましたね。 結末をどうしても示唆しなければ感想が書けないのがつらいところですが、まあちらりと書いておくと――勇ましく歴史に名を残すのもいいですが、清三のような透明な諦観の中に静かに沈んでいきたいなあ、と思わされました。 逆さまのヒロイズムですが。 花袋の今作での文体は、季節季節の動植物の様子を中心とする情景描写が執拗なまでに書かれているんですが、最初は少しうるさく感じますが、結末に近づくに従って、その描写は透明度を増すように思われます。 そして結末を読み終え、頁を伏せると、白々明けの澄み切った空気の中に立っているような、静かな感動を呼び起こされます。 スキャンダラスな『蒲団』と対照的に静かな『田舎教師』――この両傑作を読んだだけでも、花袋恐るべしなことがわかりますよ。 岩波文庫の『時は過ぎゆく』と『温泉めぐり』も買ったので、しばらくは固いお蒲団の世界に浸ろうと思う所存。

蒲団

固いお蒲団(ⓒ花子とアン)、もとい、田山花袋の『蒲団』を結構前に読んでいたのである。 それから花袋にハマったわけで。 自然主義文学の何たるかもよくわからん私、理念が先走りしたなんだかしかつめらしい物かと思っていたんですが、これは面白いですよ。 主人公である妻子持ちの文士・時雄が、女弟子である芳子に一方的に懸想し、しかしそれを表立っては勿論言えませんから、悶々としていたところ、芳子に恋人ができ、嫉妬の焔が燃え上がり――というお話です。 私、性格が悪いもんですから、とにかく時雄に感情移入してしまいまして、「芳子みたいなスベタは死にくされ!」ぐらいの勢いで読んでいました。 で、色々と保護者然とした態度を表面的には取りつつ、芳子の恋路を時雄は邪魔するわけですが、「時雄がんばれ!」と手に汗を握りつつ読んだわけで。 まったく自然主義文学も何もあったもんじゃない邪道の読み方だと思いますが、ここまで主人公に感情移入できるということは、『蒲団』が優れた文学である証でしょう。 いやあ、戦前の文学(純文学も、探偵小説も、怪奇幻想文学も)ってほんといいですね! 戦前文学の鉱脈を掘り下げても掘り下げても、まだまだ底が見えませんわ。 楽しいわ~。 で、今はゴーゴリの処女作『ディカーニカ近郷夜話 前後篇』を挟みつつ、『田舎教師』を読んでおるところです。 あ、ゴーゴリも好きなんですよ。 機会があれば、ブログに書きたいと思います。 では~。

剛腕

遂に買っちゃいました……プロテインを! 去年の6月から、中年太り対策に筋トレを再開して、だいぶん締まってきたんですが、いまいちガッチリ感が足りない。 ので、プロテインを筋トレ後と朝に飲むことにしたのです。 これで、剛腕ラリアットを繰り出せるような身体を作ろうと思います! しかし、一体私はどこへ行こうとしてるのでしょうね……?

帽子

マンガってほとんど読まないけど、語ってみるか、ヒマだからな! という前ふりでほとんどわかったかもしれませんが、上野顕太郎氏(以下うえけん)のファンです。 全作品――と言いたいところですが、『ゲームびと公式ガイド』以外の単行本を持ってます。 で、コミックビーム連載中の『夜は千の眼を持つ』も全巻買ってるんですが……感想は、うーん、複雑。 『帽子男は眠れない』&『帽子男の子守唄』、『ひまあり』の1巻、『あささわDX』で大笑いした自分にとっては、のれないんですよね。 パロディネタが多くて、あんまりマンガを知らない自分にはマニアックすぎてついていけない、というのもあるし。 マンガなのに「強い言葉、弱い言葉」とか日常の重箱の隅をつつくようなネタを持ってくるのが好きだったんですが。 うえけん氏も確か言ってたと思うんですが、『夜千』は『あささわ』の系譜に連なるものだと思うんですけど、正直『あささわ』のほうが(以下五字略)。 うえけんさん、どうか昔の作風に戻って! って言ったら怒るだろうなあ。 うえけん氏の画力と実験精神とこれこそギャグだという感覚をすべてぶち込んで、『夜千』を描かれているわけですから。 それでも、オールドファンは昔を懐かしがるものなので……すみません。 昔のうえけんって? と思った方は、上に挙げた4冊を古書店で買うべし! それと、近作では『さよならもいわずに』も傑作ですよ、ギャグマンガではないですが。 あ、怪奇系のマニアの方には、『帽子男は眠れない』所収の『スズキ』と『豆腐屋』は最高のホラーだと思いますので、ぜひ! もしも自分が売れる物書きになれたら、うえけん氏とスプリットで本を出したいなあ、と昔から思っていたことは内緒です。