改竄
今年の八月に出た、岡本綺堂の光文社文庫版『狐武者』の中の『うす雪』を読んでいるんですが、綺堂的に言えば「むむ」となったわけで。 それは、やたらと「気がおかしい」という日本語的に微妙な表現が出てくること。 何だかおかしいなあと思いながら、電車の中で読み進めていたんですが、帰宅して作品社から数年前に出た『岡本綺堂探偵小説全集』の下巻にあたってみたら……やはりテキストが改竄されていました。 作品社版の『うす雪』には、ちゃんと「気狂い」と書いてある。 しかも、眉を顰めたのは、テキスト改竄について、光文社文庫版の巻末に何の断りもないこと。 こりゃあちょっといけませんや。 去年の十一月に出た、綺堂の光文社文庫版『女魔術師』には、ちゃんと「作品の時代背景に鑑み――」的な一文とともに、底本通りとした、と書いてあるのに。 どうして『狐武者』では姿勢を転換しちゃったんでしょう。 私は差別を助長するようなことは勿論言いません。 ですが文学作品は、たとえ眉を顰めるような表現が出てきたとしても、それが出版された当時のままで読みたいだけなんです。 はあー、がっかり。