腐敗

鈴木三重吉『小鳥の巣』(岩波文庫)を読み終わりました。

『漱石追想』(岩波文庫)、『文豪妖怪名作選』(東京創元)も読んだんですが、その感想は、また機会があれば。

で、『小鳥の巣』ですが、三重吉自身の『千鳥』と対になったような作品です。
『千鳥』があくまで抒情的に美しい世界を描いたものとすれば、『小鳥の巣』は己の神経衰弱の療養生活の実相を抉り出したような、人によっては厭悪の感情を催しそうな作品です。

中でもキーワードとして頻出するのが、「腐った」「だだ黒い」「だだ暗い」「頭が、がじがじする」といった負の言葉群ですね。
「腐った」以外は、三重吉の造語のようですが、いかにも神経衰弱でくさくさした精神状態をよく表しています。

物語は、言ってしまえばとりとめがなく、解題の安倍能成が指摘しているように、長篇小説の結構が弱いです。

しかし、神経衰弱患者特有の、陰鬱で、苛立った感情状態を味わうには、好い作品だと思われます。
なかなかお勧めです。

次は『日本幻想文学集成 佐藤春夫 海辺の望楼にて』(国書刊行会)を読みます。

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